[著者情報]
執筆者: 佐藤 健一(Sato Kenichi)
獣医師 / 小動物繁殖学アドバイザー都内の動物病院で15年間、多くの動物とそのご家族に寄り添ってきました。特に小型犬の遺伝性疾患や健全な繁殖に関する分野を専門としており、優良ブリーダー向けのセミナーなども行っています。
この記事にかける想い:
新しい家族を迎えることは、人生における最高の出来事の一つです。しかし、その裏側には残念ながら、利益だけを追求する悲しい現実も存在します。私の役目は、専門家としての知識と経験を総動員し、あなたが「この子に出会えて本当に良かった」と心から思える、後悔のない選択をするためのお手伝いをすることです。
「可愛いキャバプーを家族に迎えたい!」その純粋な気持ちの裏側で、「でも、どうやって信頼できるブリーダーを探せばいいの?」「もし病気がちの子だったらどうしよう…」といった不安を感じていらっしゃるのではないでしょうか。獣医師として、そのお気持ちは痛いほどよく分かります。
ご安心ください。正しい知識を身につけて、確認すべきポイントを一つずつ押さえれば、後悔のない最高の出会いを実現できます。
この記事では、私が日々の診察やセミナーで多くのご家族にアドバイスしてきた経験と、動物保護団体の厳しい視点を統合した、オリジナルの「15の安心チェックリスト」を初公開します。
この記事を読み終える頃には、あなたは自信を持ってブリーダーと対話し、ウェブサイトの華やかな情報に惑わされることなく、ご自身の目で本質を見抜く力を手に入れているはずです。
なぜ、これほどブリーダー選びは難しいのか?多くの人が陥る「3つの落とし穴」
私が診察室で飼い主さんからご相談を受ける中で、特に多いのがブリーダー選びに関する後悔の声です。あなたも、もしかしたらこんな風に考えてしまってはいないでしょうか?
- 落とし穴1: 「相場より価格が安いから、お得に感じてしまった」
- 落とし穴2: 「ウェブサイトの写真がとても可愛くて、すぐに問い合わせてしまった」
- 落とし穴3: 「ペットショップで目が合ってしまい、運命だと思ってしまった」
これらの気持ちは、決して間違ってはいません。しかし、これらの感情的な判断が、時に子犬とあなたの未来にとって大きなリスクを招くことがあるのです。
でも、それはあなたのせいではありません。多くの情報が溢れる中で、何が本当に重要なのかを見極めるのは、専門家でなければ至難の業です。だからこそ、まずは「なぜ見極めが難しいのか」その構造から理解することが、後悔しないための第一歩となります。
これが本質です。「優良ブリーダー」と「パピーミル」を分ける、たった1つの違い
ブリーダー選びの本質を理解するために、まず知っておくべき重要な関係性があります。それは、「優良ブリーダー」と「パピーミル」という、動物福祉と利益追求の観点から全く正反対の存在がいるという事実です。
- 優良ブリーダー (Excellent Breeder):
その犬種の健全な発展と、動物福祉を第一に考える繁殖家のことです。彼らにとって子犬は「作品」であり、次の世代へと健全な血統を繋いでいくための誇りです。 - パピーミル (Puppy Mill):
日本語では「子犬工場」と訳されます。動物福祉を無視し、ただ利益のためだけに子犬を「商品」として大量生産する悪質な繁殖業者のことです。
この優良ブリーダーとパピーミルは、目的意識が根本的に異なります。 優良ブリーダーの目的が「犬種の質の向上と犬の幸福」であるのに対し、パピーミルの目的は「利益の最大化」に他なりません。この視点を持つだけで、ウェブサイトの情報やブリーダーの言葉の裏側にある本質が、全く違って見えてくるはずです。

【印刷推奨】獣医師が本気で考えた「後悔しないための15の安心チェックリスト」
ここからは、いよいよ本題です。あなたが具体的な行動に移すための、網羅的かつ実践的なチェックリストをご紹介します。このリストは「①見学前の確認」「②犬舎見学での確認」「③契約時の確認」という3つのステップに分かれています。ぜひ印刷またはブックマークして、一つずつ冷静に確認作業を進めてください。
ステップ①:見学前のウェブサイト・問い合わせチェック (5項目)
まず、犬舎を訪問する前に、オンラインで得られる情報から候補を絞り込みます。この段階で、多くのパピーミルをふるい落とすことが可能です。
- 1. 動物取扱業の登録番号が明記されているか?
これは事業を行う上での最低限の法的要件です。記載がない場合は論外ですが、動物取扱業登録があるからといって優良ブリーダーである証明にはならない点に注意してください。あくまでスタートラインです。 - 2. 特定の犬種に特化しているか?
優良ブリーダーは、特定の犬種(キャバプーの場合はその両親犬種であるキャバリアやトイ・プードル)への深い知識と愛情を持っています。常時5種類以上の犬種を扱っているような場合は、専門性が低く、利益優先の業者である可能性を疑うべきです。 - 3. 親犬の情報(写真、性格、遺伝子検査結果)が公開されているか?
子犬の品質は、親犬(両親犬)の心身の健康状態によって客観的に証明されます。 親犬の情報を隠すブリーダーは、何か都合の悪いことがあると考えられます。特に、後述する遺伝性疾患検査の結果を公開しているかは極めて重要な指標です。 - 4. ブリーダーの理念や犬への想いが具体的に語られているか?
文章から、犬への愛情や繁殖に対する哲学が伝わってくるかを確認しましょう。ただ「可愛い子犬がいます」としか書かれていないサイトより、繁殖の難しさや命の尊さに言及しているブリーダーの方が信頼できます。 - 5. 問い合わせへの返信が誠実かつ迅速か?
質問に対して、はぐらかさずに丁寧に回答してくれるかを見極めます。特に犬舎見学のお願いに対して、快く受け入れてくれるかは重要な判断材料です。
ステップ②:犬舎見学での五感チェック (7項目)
犬舎見学は、ブリーダーが「優良」であるかをあなた自身が評価するための、最も重要なプロセスです。 ウェブサイトでは分からない現実を、あなたの五感で確かめてください。
- 6. 犬舎や飼育スペースは清潔で、不快な臭いはないか?
動物の臭いはある程度しますが、排泄物が放置されたようなアンモニア臭が充満している環境は、衛生管理ができていない証拠です。 - 7. 親犬や他の犬たちに会わせてくれるか?
「母犬は神経質になっているから」などの理由で親犬に会わせないブリーダーは絶対に避けるべきです。親犬の健康状態や性格を隠している可能性があります。 - 8. 親犬は健康で、毛並みは美しく、人懐っこいか?
痩せすぎていないか、皮膚病はないか、人間を極端に怖がらないかなどを観察します。親犬の性格は子犬に遺伝しやすいため、穏やかでフレンドリーな親犬であることは非常に重要です。 - 9. 子犬が育った環境(リビングなど)を見せてくれるか?
生まれてからずっとケージの中だけで育った子犬と、リビングなどで人と触れ合いながら育った子犬とでは、社会性が全く異なります。 - 10. 遺伝性疾患検査の証明書を提示してくれるか?
これは最重要項目の一つです。親犬の健康は、遺伝性疾患検査の結果によって客観的に証明されます。 キャバプーの場合は、両親犬種であるキャバリアとトイ・プードルがかかりやすい遺伝性疾患の検査結果(クリア証明)を必ず見せてもらいましょう。
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: ブリーダーに、その犬種の「良い点」だけでなく「飼育が大変な点」や「かかりやすい病気」についても、あえて質問してみてください。
なぜなら、この質問への回答に、そのブリーダーの誠実さが現れるからです。優良ブリーダーは、良いことばかりを並べて購入を煽ることはしません。むしろ、これから家族になるあなたのために、厳しい現実や飼育の大変さも正直に伝えてくれるはずです。その誠実さこそが、迎えた後も頼れるパートナーになる証なのです。
- 11. ワクチン接種証明書や健康診断書を確認できるか?
獣医師による健康チェックを受けているか、適切な時期にワクチンを接種しているかを確認します。 - 12. あなたの家族構成や飼育環境について詳しく質問してくるか?
優良ブリーダーは、子犬が幸せになれる家庭かどうかを真剣に見極めようとします。逆に、こちらの状況を何も聞かずに「誰にでも売ります」という態度のブリーダーは信用できません。
ステップ③:契約時の最終チェック (3項目)
迎えることを決めた後も、安心して契約するための最終確認を怠らないでください。
- 13. 契約書や保証制度の内容が明確か?
生体保証の内容(万が一、先天性疾患などで亡くなった場合の対応など)を、書面で明確に説明してくれるかを確認します。 - 14. 血統証明書(両親犬のもの)について説明があるか?
ミックス犬であるキャバプー自身に血統書はありませんが、ジャパンケネルクラブ(JKC)などが発行する両親犬の血統証明書は、その犬の出自を証明する重要な書類です。その内容についてきちんと説明してくれるかを確認しましょう。 - 15. 迎えた後のアフターフォローや相談体制は整っているか?
「しつけで困ったことがあれば、いつでも連絡してくださいね」と言ってくれるような、販売後も良好な関係を築こうとしてくれるブリーダーを選びましょう。
| 犬種 | 特に注意したい遺伝性疾患 | 検査方法の例 | 備考 |
|---|---|---|---|
| キャバリア | 僧帽弁閉鎖不全症 (MVD) | 心臓エコー検査 | 心臓の遺伝疾患。親犬が若齢で発症していないか確認が重要。 |
| 脊髄空洞症 (SM) | MRI検査 | 脳や脊髄の疾患。検査コストが高いため、実施しているブリーダーは稀だが、リスクの認識があるかは確認したい。 | |
| トイ・プードル | 進行性網膜萎縮症 (PRA) | 遺伝子検査 | 徐々に視力が失われる目の病気。遺伝子検査で発症リスクを排除できる。 |
| 膝蓋骨脱臼(パテラ) | 触診 | 膝のお皿がずれる状態。グレードがあり、親犬が重度でないか確認。 |
よくある質問(FAQ)
最後に、皆さまからよくいただく質問について、簡潔にお答えします。
Q1. ミックス犬のキャバプーに、血統書は意味があるのですか?
A1. キャバプー自身の血統書はありませんが、両親である純血種のキャバリアとトイ・プードルの血統書は非常に重要です。どのような血統背景から生まれたのか、遺伝的なリスクはどうかなどを推測する上で、信頼できる情報源となります。
Q2. マイクロチップは装着されているべきですか?
A2. はい。2022年6月から、ブリーダーやペットショップで販売される犬猫へのマイクロチップ装着が義務化されました。マイクロチップが装着され、飼い主情報が登録されているかを確認してください。これは法律で定められた、事業者の責任です。
Q3. 遠方のブリーダーで、すぐに見学に行けない場合はどうすれば良いですか?
A3. 理想は直接訪問することですが、難しい場合はオンラインでの犬舎見学を申し出てみましょう。誠実なブリーダーであれば、ビデオ通話などで犬舎の様子や親犬を隠さず見せてくれるはずです。もしオンライン見学を拒否するようであれば、そのブリーダーは避けた方が賢明です。
まとめ:最高の家族と出会う、自信に満ちた第一歩を
後悔しないブリーダー選びとは、単に「可愛い子犬」を探すことではありません。その子の未来の健康と幸せの土台となる「健康で愛情深い親犬」と「誠実な繁殖家」を見つけ出す旅です。
その長い旅路において、今回あなたにお渡しした「15の安心チェックリスト」が、道に迷わないための信頼できる羅針盤となることを、心から願っています。
漠然とした不安は、もうありません。あなたには、最高の家族を迎えるための正しい知識と、本質を見抜く視点が備わりました。
自信を持って、その素晴らしい第一歩を踏み出してください。
さあ、まずはこの「15の安心チェックリスト」をブックマークして、気になるブリーダーさんのウェブサイトを、今日からチェックするところから始めてみましょう。
[参考文献リスト]
この記事を作成するにあたり、以下の情報源を参考にしました。
- 優良ブリーダーとパピーミルの違い – パスレルワン (https://passerellewan.jp/breeder/)
- 本当に良いブリーダーの見分け方 – シェルティ・レスキュー (https://www.help-sheltie.net/breeder.html)
- ジャパンケネルクラブ(JKC)について – petan (https://petan.jp/japan-kennel-club/)