「久しぶりに懐中時計を使おうと思ったら止まっていた」「形見の懐中時計だから、傷つけずに動かしたい」——こういう状況、焦りますよね。
結論から言うと、クオーツ(電池式)で、裏ぶたが開けやすいタイプなら自分で交換できるケースはあります。一方で、価値が高い・構造が特殊・開け方が分からないなら、時計店や修理店に任せるのが最短で安全です。
まず最初に:その懐中時計、電池式(クオーツ)?機械式?
ここを間違えると、永遠に電池を探すことになります。
- 機械式(手巻き/自動巻き):電池はありません。リューズ(つまみ)で巻くと動きます。
- クオーツ(電池式):巻いても動かず、電池で動きます。秒針が「1秒ごと」に動く個体が多いです(例外あり)。
迷ったら、裏ぶたを無理に開けず、時計店で「機械式かクオーツかだけでも見てもらう」のが安全策です。
電池型番の見つけ方:SR/LR と SW/W をここだけ押さえる
電池式だった場合、交換で一番大事なのは「同じ規格の電池を入れること」。
SR と LR の違い(ざっくりでOK)
- SR:酸化銀電池(Silver Oxide)
- LR:アルカリ電池(Alkaline)
一般に時計用途では**SR(酸化銀)**が選ばれることが多いです(電圧特性が安定しやすい、など)。名称の整理としては、アルカリ系は LR、酸化銀系は SR として規格化されています。
SW / W(低ドレイン/高ドレインの考え方)
時計用の酸化銀電池は、用途により「低ドレイン(ゆっくり消費)」と「高ドレイン(負荷が大きい)」の考え方があります。Renataも銀電池を High Drain / Low Drain などのバリエーションで分類しています。
型番末尾の SW / W は、流通上「低ドレイン/高ドレイン」を示す文脈で扱われることが多いのですが、ブランドや表記体系で差が出ることもあるので、最終的には「元の電池と同一型番」か「メーカーの互換表」で合わせるのが確実です。
互換表で“型番の言い換え”を確認する
たとえば、Renataのクロスリファレンスでは 377 が SR626SW に対応する、といった形で同等規格が整理されています。
Energizerもウォッチ電池のクロスリファレンス資料を公開しています。
【結論】: 型番が1文字でも違うなら「互換っぽい」で入れず、互換表で確認してから入れてください。
なぜなら、サイズが近くても厚み違いで接触が甘かったり、低/高ドレインの相性で寿命が極端に短くなったりして、「交換したのにすぐ止まる」事故が意外と起きます。焦るほど“確証”を取りにいくのが、いちばん早いです。
自分で交換できるかの分かれ道:裏ぶたのタイプ
裏ぶた(ケースバック)の構造で難易度が変わります。
代表的なタイプは「はめ込み(スナップ)」「ねじ込み(スクリューバック)」などです。
- はめ込み(スナップ):側面に小さな“こじ開けの切り欠き”があることが多く、比較的DIY向き
- ねじ込み:工具が必要になりやすく、傷リスクが上がる(DIY難易度高め)
- ヒンジ式(ハンターケース等):開け方を誤ると歪みやすい。価値がある個体は特に注意

懐中時計の電池交換:DIY手順(はめ込み裏ぶた想定)
※ここでは**一番多い“はめ込み裏ぶた”**を想定します。ねじ込みの場合は工具・リスクが上がるので、無理しないのが正解です。
用意するもの
- 先の薄いオープナー(ケースナイフ等)
- 精密ドライバー(電池押さえがネジの場合)
- ピンセット(できれば樹脂/非金属)
- 作業マット(白い布でもOK)
- 小皿(ネジや押さえを失くさない)
手順
- 作業前に写真を撮る(電池押さえ・向き・絶縁シートの位置)
- 切り欠きにケースナイフを当てて、ゆっくり開ける
- こじる角度が強いと、ケースに傷が入りやすいです
- 電池の型番を読む(例:SR〜、〜SW など)
- 電池押さえ(バネ・クリップ・ネジ)を外して電池を取り出す
- 同規格の新品電池を入れる(向きを間違えない)
- 元通りに押さえを戻す
- 裏ぶたを閉める(均等に押してパチンと固定)
「交換したのに動かない」時のチェック
- 電池の**+/−向き**が逆
- 電池押さえがしっかり接触していない
- 絶縁シート(透明フィルム等)を戻し忘れ/挟み込み
- そもそも電池切れ以外(回路・コイル・接点汚れ)
この段階で粘るほど傷を増やしやすいので、5分で切り上げて店に持ち込むのが結果的に早いです。
どこで交換する?おすすめの選び方(比較表)
| 選択肢 | 早さ | 失敗リスク | 向いている人 | 注意点 |
|---|---|---|---|---|
| 自分で交換 | すぐ | 高め | 裏ぶたがはめ込み・普段から細かい作業に慣れている | 傷、部品紛失、型番ミス |
| 街の時計店(時計屋) | 早いことが多い | 低め | とにかく安全に動かしたい | 店舗で対応範囲が違う |
| 修理専門店(工房) | 相談しやすい | 低い | 古い個体/特殊ケース | 納期がかかることも |
| メーカー・正規サービス | 確実 | 最低 | 高価・記念品・アンティーク | 受付〜返却まで日数 |
よくある質問(FAQ)
Q. 電池の寿命はどのくらい?
個体差が大きいです。目安としては数年単位で動くことが多いですが、ムーブメントの状態や保管環境でも変わります。「止まった=すぐ故障」ではなく、まず電池を疑うでOKです。
Q. “377”とか“SR626SW”とか、結局どれを買うの?
元の電池の刻印が最優先です。刻印が読めるならそれを買う。読めないなら、RenataやEnergizerのようなクロスリファレンス(互換表)で照合してください。
Q. 裏ぶたに切り欠きがない…開けていい?
無理にこじると傷が入りやすいです。裏ぶたの種類はいくつかあり、開け方も変わります。自信がなければ時計店へ。
[著者情報]
編集部(時計・小物メンテナンス担当)
懐中時計の電池交換について、電池メーカーの互換表・ケース構造の一般的な仕様・修理店の公開情報をもとに、**「傷を増やさず、最短で動かす」**観点で整理しました。迷う場面では無理を推奨せず、価値保全を優先する方針です。