会議やチャットで提案を伝えた瞬間、すかさず飛んでくる一言。
「それって根拠ある?」
資料を作り込んだのに一気に不安になり、頭が真っ白になってしまう。きっと、そんな経験が一度はあるはずです。
ただ、安心してほしいことがあります。必要なのは「完璧な答え」ではありません。
必要なのは、“今持っている事実と数字をどう並べて、どう理由づけするか”という、根拠の考え方と型です。
このガイドでは、次の3つを軸に整理していきます。
- 根拠とはそもそも何か
- ビジネスで使える「根拠の4分類」と組み立て方
- シーン別に使える「根拠の揃え方テンプレ」とNG例
読み終えたときには、
「このレベルの根拠なら、まず上司に投げてみよう」
と、以前よりずっと気楽に、一歩前へ出せる状態を目指します。
なぜいつも「その根拠は?」で詰まってしまうのか
最初に、よくある場面を一つだけ共有させてください。
新サービスの簡単な打ち合わせで、若手の社員がこんな提案をしました。
「20代女性向けに、○○の機能を追加したいと考えています」
上司の反応は一言だけ。
「ふむ、それって根拠ある?」
若手社員はあわてて、
「いや、その…なんとなくニーズがありそうかなと…」
と言葉を濁してしまいました。
会議が終わったあとに、「やっぱり自分はまだまだだな」と落ち込んでいたのが印象的でした。
この場面で起きていたのは、能力不足ではありません。起きていたのは、「根拠とは何か」へのイメージのズレです。
多くの若手が、次のように考えがちです。
- 「もっと数字を集めれば、きっと通るはず」
- 「資料のページ数が足りなかったからダメだったのかもしれない」
しかし、上司が求めているのは「数字の量」そのものではありません。
上司が本当に知りたいのは、
「その結論にたどり着いた“筋道”が、納得できるかどうか」
この一点だけです。
「根拠が足りない」と言われたとき、多くの場合で足りなくなっているのは、
- データそのものよりも
- データの“意味づけ”
- そして、結論とのつながり
です。
「売上が減っています」→ ただの“事実”
「売上が減っていて、主な要因は○○なので、△△の施策が必要です」→ “根拠のある主張”
同じ数字でも、「売上が減っています」で止まる説明と、「だから何が言えるのか」まで踏み込んだ説明では、上司の感じる説得力がまったく違います。
ここから先は、根拠の中身をもう少し分解しながら、実務で使いやすい形に整理していきます。
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: 「根拠が弱い」と言われたときは、まず「数字の量」ではなく「数字と結論のつながり」を疑ってください。
多くの現場では、データは十分に集められている一方で、「だから何が言えるのか」「だから何をするべきか」の部分が言語化されていません。この“つなぎ目”を意識するだけで、同じ数字でも説得力が一段階変わります。
ビジネスで使える「根拠」の4分類と、その組み立て方
根拠の基本構造は「事実・データ+理由づけ」
ビジネスの場面で使う根拠は、次のような構造で成り立ちます。
- 事実・データ:売上、アクセス数、顧客の声、アンケート結果など
- 理由づけ:その事実から、なぜその結論が言えるのかという筋道
事実だけでは、まだ「根拠」にはなりません。
データには、必ず「だからこの結論につながる」という橋渡しが必要です。
この橋渡しを考えたり整理したりするときに役立つのが、ロジカルシンキングです。
ロジカルシンキングは、「結論」と「根拠」の関係を、筋道として見える形にしてくれる思考法です。
その中でも、
- ピラミッド構造
- PREP法
という2つのフレームは、会議や資料作成で根拠を示すために非常に使いやすい道具になります。
ここからは、根拠を4つのタイプに分けて整理していきます。
根拠の4分類
ビジネスシーンでよく使う根拠は、おおまかに次の4つに整理できます。
- 数値データ
- 売上、利益、コンバージョン率、アクセス数、アンケート結果など
- 「どれくらい」「どの程度」という質問に答える根拠
- 定性情報(質的な情報)
- 顧客の声、ユーザーインタビュー、現場メンバーのコメントなど
- 「なぜそう感じるのか」「どんなニーズがあるのか」を補う根拠
- ルール・方針・基準
- 会社の方針、経営戦略、市場の常識、法令・規制など
- 「なぜ今、この方向性が望ましいのか」を裏づける根拠
- 事例・過去実績
- 自社の成功事例・失敗事例、他社の事例、業界の慣行など
- 「似た状況で何が起きたのか」を示す根拠
よくある弱い出し方と、一段強くするコツ
- 数値データの弱い出し方
- 「アクセスが増えています」だけで終わる
- → 「アクセスが○%増加しており、そのうちスマホ比率が○%まで高まっているため、スマホ向け改善に優先的に投資すべきです」と、解釈と結論までつなげる。
- 定性情報の弱い出し方
- 「お客様からこう言われました」と個別の声だけ出す
- → 「ユーザーインタビュー10件のうち7件で、○○に対する不満が共通していました」と、傾向として整理して示す。
- ルール・方針の弱い出し方
- 「会社の方針だから」とだけ伝える
- → 「中期経営計画では○○領域を重点投資領域と定めており、その方針と整合するために、この施策が必要です」と、結論とのつながりを言語化する。
- 事例・過去実績の弱い出し方
- 「他社もやっています」とだけ言う
- → 「同じターゲットを持つ△△社が、○○施策によって売上を○%伸ばしており、当社も同じ文脈で成果を期待できます」と、自社への当てはめ方を具体化する。
主張と根拠を「ピラミッド構造」で整理する
主張と根拠の関係をわかりやすく見せるために、ピラミッド構造が役立ちます。ピラミッド構造では、頂点に「主張(結論)」を置き、その下に3つ前後の根拠グループを支柱として配置します。
- 頂点:今回伝えたい結論
- 支える柱:根拠① 数値データ/根拠② 定性情報/根拠③ 事例・方針…など
この形で整理すると、
- 「結論は何か」
- 「どの根拠で支えているか」
が、一目でわかるようになります。
データと解釈を「三角ロジック」で分けて考える
根拠が弱いと感じるときは、
- データ(事実)
- 解釈(理由づけ)
- 結論
を、三角形の3点として分けて考えると、どこが足りていないかを確認しやすくなります。
- データはあるが、解釈が言語化されていない
- 解釈はあるが、裏づけとなるデータがない
- 結論が、データ・解釈と飛躍している
といった不足が、視覚的に見えてきます。
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: 根拠の4分類をすべて揃える必要はありません。大切なのは、「どの種類の根拠で支えているか」を自分で意識して選ぶことです。
多くの人が「なんとなくそれっぽいデータ」を並べますが、種類や役割を意識して選ぶだけで、上司からの質問の角度が変わります。「この提案は主に事例ベースの根拠で支えています。今後は数値データも集めて強化したいです」と伝えられるだけでも、印象は大きく変わります。
シーン別・「根拠の揃え方」テンプレート&NG例
ここからは、実際の場面ごとに「どの根拠を、どう並べるか」のイメージを固めていきます。
上司への30秒口頭報告(PREP法テンプレ)
30秒での口頭報告では、PREP法が特に使いやすい型になります。
PREP法:
- Point(結論)
- Reason(理由=根拠)
- Example(具体例=補足根拠)
- Point(結論の再提示)
NG例(よくある報告)
「最近、会員数が増えてきていて、女性ユーザーが多くて、インスタ経由も増えていて……」
この報告では、
- 結論が何なのか
- 何を判断してほしいのか
が伝わりません。
改善例(PREP法を使った報告)
「結論として、20代女性向けのキャンペーンを来月から強化したいと考えています。
理由は、直近3カ月で新規会員の60%が20代女性で、うち半分がインスタ経由だからです。
例えば、先月だけでインスタ経由の登録が前月比150%に伸びています。
そのため、来月はインスタ向け広告の予算を○%増やしたいと考えています。」
同じ情報でも、
- 結論を先に言う
- 根拠の数字を理由としてまとめる
- 具体例を一つ添える
だけで、上司が判断しやすくなります。
会議での5〜10分提案(ピラミッド構造テンプレ)
5〜10分の提案では、ピラミッド構造が効果的です。
- 頂点:今回の提案の結論
- 下の段:3つ前後の根拠グループ
- 数値データ
- 顧客・現場の声
- 事例・方針
この構造に沿って、スライドを3〜5枚作るだけでも、論理の通りがかなり変わります。
スライド資料での根拠の見せ方
1枚のスライドに詰め込みすぎると、根拠が伝わらなくなります。1スライドには、次の3つをそろえる意識が有効です。
- 結論(主張):スライドのタイトル
- 根拠:グラフや箇条書き
- 補足:前提条件や注意点
| シーン | 優先したい根拠の種類 | 補足ポイント |
|---|---|---|
| 30秒口頭報告 | 数値データ + ルール・方針 | 結論→数字→会社方針との整合の順で話す |
| 5〜10分の会議提案 | 数値データ+定性情報+事例・過去実績 | ピラミッド構造で3つの柱を作る |
| 詳細なスライド資料 | 数値データ+定性情報+ルール+事例の組み合わせ | 1スライド1メッセージを徹底する |
| 上層部への稟議・投資判断 | 数値データ+事例・過去実績+ルール・方針 | リスクと前提条件を明示する |
| 施策後の効果報告 | 数値データ+定性情報 | Before/Afterをセットで示す |
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: すべての場面で「4種類の根拠をフルコンボで揃えよう」としないでください。
実務では、時間も情報も限られています。大切なのは、「この場面では、どの根拠が特に効くか」を選び取ることです。例えば、上層部には事例と数字、現場メンバーには定性情報を厚めに用意するなど、相手によって根拠のバランスを調整すると、コミュニケーションの感触が変わります。
よくある質問:根拠に関する素朴なギモン集
Q1. 根拠が“足りている”かどうかは、どう判定すればいいですか?
A. 「誰の、どんな不安を解消したいのか」を基準に考えると判断しやすくなります。
上司が心配していそうなポイントを書き出し、その不安一つひとつに対して「少なくとも1つの根拠」が当たっていれば、まずは十分なスタートラインです。
Q2. データがあまりないテーマのときは、どうやって根拠を作れば良いですか?
A. その場合は、
- 小規模でもよいのでアンケートやヒアリングを行う
- 他社事例や業界レポートなど、外部の事例を借りる
- 会社の方針や戦略に沿っていることを明示する
といった「質的な根拠」や「方針ベースの根拠」を中心に組み立てます。
「現時点ではこのレベルの根拠だが、次のステップとしてこのデータを集めたい」と正直にセットで伝えると、むしろ信頼されることが多いです。
Q3. 上司によって求める根拠レベルが違う気がします。どう合わせれば良いですか?
A. これは多くの現場で起きている悩みです。
まずは、
- 数字を重視するタイプか
- 現場の声や定性情報を重視するタイプか
- 他社事例に安心するタイプか
を観察し、上司との相性がよい根拠の種類から厚めに揃えると良いです。そのうえで、打ち合わせの早い段階で、
「どの程度の数字や事例があれば判断しやすいですか?」
と素直に聞いてしまうのも、一つの有効な方法です。
Q4. 完璧な根拠が揃っていない状態で提案しても良いのでしょうか?
A. 完璧な根拠が揃う場面は、むしろ少ないと考えています。
重要なのは、
- 今ある根拠のレベルを正直に共有すること
- 不足している部分をどう補っていくつもりかを伝えること
の2点です。
「現時点では事例ベースの根拠が中心ですが、施策を試験的に実施してデータを集め、効果検証を行いたいと考えています」とセットで話せば、前向きな提案として受け取られやすくなります。
まとめ:根拠は「量」ではなく「構造」と「つながり」
最後に、押さえておきたいポイントを整理します。
- 根拠は、事実・データ+理由づけのセットで成り立つ
- ビジネスにおける根拠は、
- 数値データ
- 定性情報
- ルール・方針・基準
- 事例・過去実績
の4つに整理すると考えやすくなる
- ピラミッド構造で「結論と根拠の関係」を見える化すると、論理の抜け漏れが見えやすくなる
- PREP法は、30秒報告など短い口頭コミュニケーションに非常に有効
- 「完璧な根拠」よりも、「今の根拠レベル」と「次に集めたい情報」を誠実に共有する姿勢が、信頼につながる
今日からできる、ささやかな一歩
- 明日の会議で話す内容を、ノートに「結論+根拠2つ(4分類のうちどれか)」という形で書き出してみる
- 1つの提案について、「この提案はどの種類の根拠で支えられているか?」を自分に問いかけてみる
最初から完璧にできる必要はありません。
根拠の4分類と、結論とのつながりを意識し始めるだけで、伝わり方は少しずつ変わっていきます。
著者情報
この記事を書いた人
佐伯 真理(さえき まり)
企業研修講師/ロジカルコミュニケーションコンサルタント。
ロジカルシンキングやプレゼンテーション、資料作成に関する研修を、これまで累計100社・3,000人以上のビジネスパーソンに提供。
元マーケティングマネージャーとして、役員会へのプレゼンや新規事業の企画審査を多数経験。
「根拠をうまく示せずに苦労していた“昔の自分”に向けて書くつもりで、若手の皆さんの背中をそっと押す記事づくりを心がけています。」
参考文献リスト
- ロジカルシンキングと問題解決に関する一般的なビジネス書・研修資料
- プレゼンテーション構成やピラミッド構造、PREP法を取り上げたトレーニング教材
- 各種企業の公開セミナー資料・ホワイトペーパー(ビジネスコミュニケーション分野)
※本記事の内容は、上記の知見と、企業研修および実務現場での経験に基づき再構成したオリジナル解説です。