※この記事は、映画『正欲』の重大なネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください(性のあり方/差別・排除/事件に関する描写が出ます)。
まず結論:『正欲』は「正しさ」が人を救う話ではなく、人を孤立させる瞬間を描く物語
映画『正欲』は、わかりやすい“恋愛の物語”でも、“多様性は素晴らしい”で終わる映画でもありません。むしろ逆で、「みんなが正しいと思う形」から外れる人が、どこで息ができなくなるのかを、かなり冷静に見せてきます。公式サイトのストーリー紹介でも、登場人物たちは背景が異なる一方で「少しずつ関係が交差していく」ことが示されています。 (上映情報<BITTERS END)
ここで刺さるのは、「悪意ある人がいるから苦しい」の手前にある、もっと日常的な圧です。
“普通”の会話、学校の空気、家族の期待、善意のアドバイス――そういうものが、静かに人を追い詰めていく。
ネタバレあらすじ:5人が交差していくまでに起きたこと(要点整理)
公式サイトのストーリーは「検事の寺井啓喜」「販売員の桐生夏月」「地元に戻った佐々木佳道」など5人の軸で進み、少しずつ交差していく構造です。 (上映情報<BITTERS END)
ここから先は、**物語の核心(ネタバレ)**を、流れがわかる形にまとめます。
主要人物と“抱えているもの”が一瞬でわかる表
| 人物 | 表の顔(社会での役割) | 内側で起きていること(核心) | 物語での役割 |
|---|---|---|---|
| 寺井啓喜 | 検事/父 | 「普通」を息子に教えたいが、家庭が崩れていく | “正しさ”側の視点の代表 |
| 桐生夏月 | 販売員 | 何かが噛み合わない日常の違和感を抱える | “言語化できない孤独”の中心 |
| 佐々木佳道 | 地元に戻った青年 | 自分の感覚が理解されない前提で生きている | 夏月と“同じ感覚”を共有する |
| 諸橋大也 | 大学生/サークル | “多様性イベント”の側に立つが、矛盾が生まれる | 「語る側」の危うさを照らす |
| 神戸八重子 | 学生 | 大也を意識しつつ、周囲の空気に揺れる | “同調圧力”を受ける側 |
結末(ラスト)で何が起きたのか:事件と「つながりたい」の行き先
ここが一番モヤモヤしやすいので、事実→意味の順で整理します。
まず事実(ネタバレ):ラスト付近の出来事
映画の後半、物語は“綺麗な理解”へは向かいません。
複数の解説記事でも触れられている通り、**「小学生を狙った盗撮」→「犯人が越川」→「逮捕」**という線で事件が描かれます(記事内では「越川が小学生を狙った盗撮をしていた」旨がまとめられています)。 (Cinemarche)
そして、その出来事が「“少数派”の生きづらさ」だけでなく、社会が恐れているもの/排除したいものを一気に表に出してしまう。
ここで大事なのは、映画が「わかりやすい正義の勝利」を描いていない点です。
“理解されない側”の孤独と、“社会が守りたいもの”がぶつかったとき、誰も気持ちよく終われないことを、あえて残します。 (Cinemarche)
「水」の意味:ロマンチックな象徴ではなく、“居場所”の比喩
『正欲』で繰り返し立ち上がる“水”は、単なる演出ではなく、言葉で説明できない感覚の居場所として機能しています。
「誰かと同じ感覚でいられる瞬間」を、水辺の時間として描くことで、観客にも“説明不能な安心”を体感させる作りです。 (Cinemarche)
[EBIボックス]
** 専門家の経験からの一言アドバイス**
【結論】: 『正欲』の感想が「共感できない/でも目が離せない」になるのは自然です。まずは“理解”と“賛同”を分けてください。
なぜなら、この作品は「誰かの感覚を肯定する映画」ではなく、「他人の感覚を“正しさ”で切り落とす怖さ」を見せる映画だからです。感想が揺れるのは、あなたの倫理観が壊れたのではなく、揺さぶられる設計に触れた結果だと思います。
“正欲”が怖いのは、性の話というより「線引き」の話だから
この作品が扱うのは、性のあり方そのものというより、
社会が「ここまではOK/ここから先はNG」を引く瞬間の暴力性です。
そこで混同が起きやすいので、言葉を最低限だけ整えます(※一般的な定義の整理です)。
用語の混同を減らすミニ表(混乱しがちなポイント)
| ことば | ざっくり意味 | 混同すると起きること |
|---|---|---|
| 性的指向 | 「誰に惹かれるか」の方向性 | “多数派”基準で断罪しやすくなる |
| 嗜好・フェティッシュ | 特定の刺激や状況に強く反応する傾向 | 「理解=容認」だと誤解されやすい |
| 罪/加害 | 法や他者の権利を侵害した行為 | “少数派”全体が疑われる空気が生まれる |
※「性的指向」の定義は、心理学の用語集等でも“惹かれ方のパターン”として説明されています。 (nawj.org)

FAQ:よくある疑問だけ、短く答えます(ネタバレ前提)
Q1. 原作と映画で大きく違う?
大枠のテーマは共通ですが、映画は**“体感”に寄せた作り**で、象徴(とくに水)と沈黙の時間が強い印象です(原作:朝井リョウ/映画化の情報は公式サイトで明示)。 (上映情報<BITTERS END)
Q2. ラストは「救い」なの?「絶望」なの?
どちらかに固定すると、たぶん外します。
救いは“わかり合えた瞬間”として確かにある一方で、社会の線引きは残り、観客にも宿題が残る終わり方です。 (Cinemarche)
Q3. 観たあと気持ちが重い。どう受け止めればいい?
「理解したい」と「割り切りたい」が同時に出る映画です。
まずは、自分がどの場面で息苦しくなったかだけ拾うと、感想が整理しやすいです(“正しさの圧”に反応したのか、“孤独”に反応したのか、など)。
まとめ:『正欲』が突きつけるのは、“誰かの正しさ”ではなく「自分の線引き」
公式サイトが掲げるように、『正欲』は「もう、観る前の自分には戻れない」と言い切るタイプの作品です。 (上映情報<BITTERS END)
観終わったあとに残るザワつきは、あなたが弱いからではなく、「線引き」を自分の問題として引き受けたからだと思います。
もし「結末は理解した。でも意味がまだ掴めない」という状態なら、次はここだけ意識してみてください。
- 自分はどの瞬間に「それは違う」と思ったか
- その“違う”は、誰を守る線引きだったか
- その線の外側に立つ人を、想像できたか
この3つが言葉になったとき、『正欲』のネタバレは“あらすじ”ではなく、あなた自身の輪郭を照らす材料に変わります。
[著者情報]
- 肩書き(記事内の語り手): 映画レビュー/物語構造の解説ライター
- スタンス: 作品の賛否を押しつけず、「何が起きたか」と「なぜ刺さるか」を切り分けて案内します(ネタバレを“理解”に変えることを優先)
[参考文献リスト]
- 映画『正欲』公式サイト(ビターズ・エンド) (上映情報<BITTERS END)
- 「正欲」作品情報(映画.com) (正欲)
- 『正欲』ネタバレ解説記事(CINEMARCHE) (Cinemarche)