「信用」と「信頼」は、同じように語られがちですが、実はまったく別物だということです。
成果は出しているのに、なぜか部下から本音を引き出せない上司がいます。
逆に、数字はまだこれからなのに、「この人のためなら頑張りたい」と思われる上司もいます。
この差を生んでいるのが、「信用」と「信頼」の扱い方です。
この記事では、人事担当者や現場の上司の立場から、職場で「信用」と「信頼」をどう整理し、どう使い分ければよいのかを、評価面談・1on1・権限委譲の3つの場面に落として解説します。
読み終わるころには、「明日の1on1でこのフレーズを使ってみよう」と思える、具体的な行動レベルまでイメージできるはずです。
なぜ今、「信用と信頼の違い」が人事と上司のテーマになるのか
成果は出ているのに、サーベイを見ると「上司への信頼が低い」「本音を話せない」というコメントが並ぶことがあります。
人事担当者としては「何が起きているのだろう?」と、モヤモヤした感覚を抱えやすいところです。
よくある場面を一つ挙げます。
- 上司は「きちんと仕事を任せている」と感じている
- 部下は「ミスするとすぐ責められるので、本音は言えない」と感じている
同じチームの中で、「信用されている実感」と「信頼されている実感」がずれている状態です。
このズレが続くと、以下のような影響が出てきます。
- ミスやリスクが共有されにくくなり、トラブルが大きくなってから表に出る
- 部下が挑戦を避け、指示されたことだけをこなすようになる
- 上司側は「なぜ主体性がないのか」とますます不満を抱える
多くの調査で、上司への信頼度が高い組織ほど、心理的安全性やエンゲージメントが高いことが示されています。
つまり、信頼関係は「雰囲気」の話ではなく、業績や離職率にも直結する経営課題になっています。
ここで重要なのは、「信用」と「信頼」を感覚的な言葉として扱うのではなく、別々の概念として整理してマネジメントに活かすことです。
【結論】: サーベイで“信頼”に関するスコアが低いとき、人事や上司は「評価制度」だけでなく、「日々の関わり方」も一緒に見直す必要があります。
なぜなら、多くの組織では評価項目は整っていても、上司と部下の対話設計が追いついていません。評価だけを改善しても、「自分は信頼されている」という被信頼感が高まらず、結果としてエンゲージメントが上がりづらくなります。この視点を持つことで、打ち手の幅が広がります。

「信用」と「信頼」の違いを2軸で整理する【過去×未来/数字×感情】
管理職研修で「信用と信頼の違いは何ですか?」と聞くと、多くの方がこう答えます。
- 「信用は実績、信頼は人柄」
- 「信用は数字、信頼は気持ち」
どれも悪くありませんが、人事や上司の実務に活かすには、もう一歩だけ整理が必要です。
2つの軸で整理すると見えてくること
信用と信頼を、次の2つの軸で整理します。
- 時間軸: 過去に基づく評価か、未来への期待か
- 評価軸: 数字・行動など客観的な事実か、価値観・感情など主観的な評価か
この2軸でマトリクスを描くと、概念の位置づけがはっきりします。
- 信用: 過去 × 数字・行動
- 例: 約束を守った回数、期限を守った履歴、成果指標
- 信頼: 未来 × 感情・価値観
- 例: 「この人に任せたい」「弱みを見せても大丈夫そう」という感覚
つまり、信用は「これまで何をしてきたか」、信頼は「これから何を一緒にしていけそうか」です。
この違いは、人事と上司の実務でもはっきり現れます。
- 評価制度やボーナス: ほとんどが「信用」の世界(過去の行動・成果を評価する枠組み)
- 1on1・キャリア支援・メンタリング: かなりの部分が「信頼」の世界(これからの可能性や本音に向き合う枠組み)
評価制度の議論だけで「信頼の問題」を解決しようとすると、どうしても限界が出てきます。
一方で、「信頼さえあれば、評価は適当で良い」という話にもなりません。
信用と信頼は、別々に設計しながら、お互いを補い合う関係にあります。
信頼のらせん関係 ― 先に上司が動く
現場を見ていると、信頼は一方向ではなく「らせん状」に回っていることがわかります。
- 上司が「信頼を示す行動」をとる
- 部下が「自分は信頼されている」という被信頼感を持つ
- 部下が上司に本音を出しやすくなり、挑戦や自己開示が増える
- 上司はその姿を見て、さらに信頼を深める
この流れが続くと、チーム全体の心理的安全性やエンゲージメントが高まります。
逆に、上司が「まずは結果を出したら信頼する」と構えていると、らせんが回りません。
【結論】: 信頼のらせんを回したいなら、上司側が“先に小さな信頼を見せる”ところから始めることが重要です。
なぜなら、多くの部下は「失敗したときにどう扱われるか」を見ています。小さなチャレンジに対して「もしうまくいかなくても一緒にリカバリーしよう」と言葉で伝えるだけでも、被信頼感が高まり、信頼のらせんが回り始めます。


明日から使える「信用」と「信頼」の使い分け実践ガイド
ここからは、人事や上司が明日から実際に変えられる行動に落としていきます。
特に重要なのは、次の3つの場面です。
- 評価面談
- 1on1ミーティング
- 権限委譲(仕事の任せ方)
評価面談での「信用」と「信頼」の扱い方
評価面談は、どうしても「信用」の話が中心になります。
たとえば次のような項目です。
- 目標達成度
- 行動評価(コンピテンシー)
- 出勤状況・基本的な勤怠
これらは過去の行動や成果に基づき、比較的客観的に評価できます。
一方で、評価面談を「信用の話だけ」で終えてしまうと、部下の側には次のような感情が残りがちです。
- 「結局、点数を付けられて終わった」
- 「自分のこれからの可能性は見てもらえていない」
ここで一言、信頼の視点を加えると、評価面談の印象が大きく変わります。
例:信用のフィードバック+信頼のメッセージ
- 信用のフィードバック
- 「この半年で、設定した3つの目標のうち2つをしっかり達成してくれました」
- 信頼のメッセージ
- 「今の実績を踏まえると、次の半年はもう少し難易度の高いプロジェクトでも十分やっていけると感じています。一緒にチャレンジの方向性を考えたいです」
同じ評価でも、未来への期待と一緒に伝えることで、信頼のメッセージに変わります。
1on1ミーティングでの「信用ミーティング」と「信頼ミーティング」
多くの1on1は、実質的に「信用の確認ミーティング」になっています。
- 「今週の進捗はどう?」
- 「あのタスクは終わった?」
もちろん進捗確認は大切ですが、これだけだと、部下は「監視されている」と感じることがあります。
信頼を育てる1on1では、次のようなテーマも扱います。
- 「今、仕事でモヤモヤしていることは何か」
- 「最近、成長を感じた瞬間はどこか」
- 「1年後に、どういう状態になっていたら嬉しいか」
被信頼感を伝えるフレーズも有効です。
- 「この部分は、あなたの判断に任せたいと考えています」
- 「もしうまくいかなくても、一緒にリカバリーの方法を考えるので、まずやってみてほしいです」
権限委譲での「信用レベル」と「信頼レベル」
権限委譲を考えるとき、上司は無意識に次の2つを見ています。
- 信用レベル(実績・スキルは十分か)
- 信頼レベル(価値観や姿勢に共感できるか、何か起きたときに対話できるか)
この2つのレベルによって、任せ方のアプローチが変わります。
例:4象限での考え方
- 信用高 × 信頼高
- 難易度の高いプロジェクトも任せやすい。裁量も大きく。
- 信用高 × 信頼低
- 実務は安心して任せられるが、価値観や情報共有の部分でフォローが必要。
- 信用低 × 信頼高
- 人柄や姿勢を信頼しているので、小さなタスクから権限委譲し、成功体験を積ませる。
- 信用低 × 信頼低
- まずは基本的なタスクとコミュニケーションの頻度を高めるところから。
| 場面 | 信用として扱うポイント | 信頼として扱うポイント |
|---|---|---|
| 評価面談 | 目標達成度、行動評価、成果物の質など、過去の事実に基づく評価 | 次の期に期待したい役割、任せたいプロジェクト、将来への可能性 |
| 1on1ミーティング | タスクの進捗確認、問題点の把握、リスクの共有 | 感情や価値観の共有、キャリアの希望、本音の悩み、弱みを話しても良いというメッセージ |
| 権限委譲 | 任せてもよい業務範囲、必要なスキルの有無、これまでの実績 | 任せた後のフォローの約束、自律的な判断への期待、失敗時の支援の宣言 |
【結論】: 「信用があるから任せる」のではなく、「信頼を育てるために任せる」という視点を一つ持つと、権限委譲の設計が変わります。
なぜなら、完璧な信用が育ってから権限委譲をしようとすると、いつまでも任せるタイミングが来ません。小さなタスクから任せ、プロセスを見守りながら信頼と信用を同時に育てることが、マネージャーの重要な役割になります。

よくある質問(FAQ)で不安を解消する
Q1. 信用できない部下を、信頼するべきでしょうか?
A. 信用の不足を無視して、いきなり全面的に信頼する必要はありません。
まずは、信用が不足している理由を言語化し、具体的な行動目標を一緒に決めることが大切です。
そのうえで、小さな範囲で「信頼を示す行動」を試してみてください。
- 例: 「このタスクはあなたに任せます。やり方に迷ったらいつでも相談してください」
全面的な信頼ではなく、限定的な信頼から始めるイメージを持つと気持ちが楽になります。
Q2. 一度失った信頼は、どうすれば回復できますか?
A. 信頼の回復には、時間と一貫した行動が必要です。
信頼は未来への期待と感情に基づくため、一度の謝罪や説明だけで完全に戻るものではありません。
次のようなステップを意識すると、回復が進みやすくなります。
- 事実の共有と、自分の認識の誤りを認める
- これから変える行動を具体的に伝える
- その行動を、一定期間、一貫して続ける
周囲が見ているのは、言葉よりも「変わった行動が続いているかどうか」です。
Q3. 上司側から信頼を示すのが怖いとき、最初の一歩は何ですか?
A. 完全に任せるのではなく、「任せる範囲」と「フォローの約束」をセットで伝えることです。
たとえば次のような言い方ができます。
- 「このパートの進め方はあなたに決めてほしいです。途中で不安になったらいつでも相談してください」
- 「期限と品質の基準だけ共有するので、その中で自由にやってみてください」
これにより、上司の不安も、部下の不安も和らげながら、信頼のらせんを回し始める一歩になります。
まとめ:信用と信頼を分けて考えると、マネジメントが楽になる
最後に、この記事のポイントをシンプルに整理します。
- 信用は、過去の実績と数字に基づく評価。
- 信頼は、未来への期待と感情・価値観に基づく関係性。
- 評価制度やボーナスは、主に「信用」の世界の話。
- 1on1やキャリア支援、権限委譲は、「信頼」の世界の比重が高い。
- 上司が先に小さな信頼を示すことで、信頼のらせん関係が回り始める。
今日からできるアクションとして、次の3つのうちどれか一つだけ試してみてください。
- 次の評価面談で、「この半年を踏まえて、これから期待したいこと」を一言添える。
- 次の1on1で、「最近、成長を感じた瞬間」をテーマに5分だけ話してみる。
- 一つのタスクについて、「任せる範囲」と「フォローの約束」をセットで伝える。
【結論】: 信用と信頼を“分けて考えること”は、上司や人事の心を軽くします。
なぜなら、「評価の話」と「人としての関係の話」を整理できることで、「自分は厳しすぎるのではないか」「甘すぎるのではないか」という迷いが減るからです。その結果、部下にとっても、何を期待されているのかがより明確になり、双方にとって健全な関係づくりがしやすくなります。