高校の進路室やSNSで「就職偏差値ランキング」を見ていると、上の方に並ぶ大学だけが“正解”に見えてしまうことがあります。
「このラインより下の大学に行ったら、就職はもう終わりなのかな……?」と不安になって、画面をスクロールする手が止まらない高校生は本当に多いです。
でも、企業の採用現場にいた立場からはっきり言えることがあります。
就職偏差値や大学ランキングは、「就職の強さ」の一部を切り取った物差しであって、あなたの未来そのものを決める判定表ではありません。
このガイドでは、
- 就職偏差値・就職率・有名企業就職率の中身と違い
- 志望業界・学部・地域によってどこをどう重視するといいか
- ランキングに振り回されずに、自分で納得できる大学の選び方
を、進路アドバイザーと元・新卒採用担当という両方の視点から、丁寧にお話しします。
就職偏差値ランキングを見て、何がそんなに不安なのか?
結論:不安の正体は「情報不足」と「ランキング=正解探し」という思い込み
就職偏差値ランキングを見て不安になる最大の理由は、
- 何を基準にした数字か分からないまま
- 「上が安全」「下が危険」というゲームのスコアのように感じてしまう
この二つが同時に起こっているからです。
スマホの画面の前で起きていること
例えば、高校3年生の翔太がスマホで「就職偏差値 大学 ランキング」と検索したとします。
最初に表示されるページには、数字と大学名がずらっと並び、「就職偏差値70」「就職偏差値60」といった表現が目に入ります。
翔太はこう考えがちです。
- 「就職偏差値70の大学に行けたら人生安泰?」
- 「就職偏差値50台の大学だったら、大手企業はもう無理?」
- 「自分の成績だと、この真ん中より下しか狙えない……将来詰むかも」
ここには二つのすれ違いがあります。
- 就職偏差値という指標が、そもそもどう作られているかを知らない状態で見ていること
- “自分のやりたい仕事”ではなく、“世間的にすごいと言われる就職先”を前提に考えてしまうこと
この二つが重なると、ランキングの数字が「自分の人生の得点」に見えてしまいます。
進路相談でよく聞く本音
進路相談の現場でも、質問の言い方は違っていても、本当の悩みは同じです。
- 「この大学の就職偏差値って高いですか?」
- 「この大学でも大手企業に行けますか?」
- 「親が“就職に強い大学にしろ”と言うんですけど……」
その裏側には、いつもこの気持ちがあります。
「自分の選択が間違っていないかが怖い」
「あとから“あの大学にしなきゃよかった”と後悔したくない」
まずは、そう感じること自体がとても自然で、同じ気持ちの受験生がたくさんいるという事実を知っておいてください。
【結論】: 就職偏差値ランキングは「間違った大学を選ばないためのチェックリスト」であって、「唯一の正解を教えてくれる答え合わせ表」ではありません。
なぜなら、採用担当として多くの学生を見てきた経験から、同じ大学でも、在学中の学び方や経験によって就職結果がまったく違うことを何度も見てきました。ランキングはあくまで入り口として参考にしつつ、「自分がそこで何をするか」に視点を移すことが、納得できる進路選びにつながります。この知見が、あなたの不安を少しでも軽くできたら嬉しいです。
就職偏差値・就職率・有名企業就職率の違いをまず整理しよう
結論:数字ごとに「何を見ているか」が違う。だから、役割も違う
就職に関する数字には、いくつかの代表的な指標があります。
- 就職偏差値
- 公的な就職率(文部科学省・厚生労働省の調査など)
- 有名企業就職率・有名400社実就職率などの民間指標
それぞれの指標は「就職の強さ」の全体像ではなく、一部分を切り取ったものです。
まず、ざっくりと役割を整理しておきましょう。
代表的な指標のざっくりマップ
- 就職偏差値
- 民間機関(日本企業格付センターなど)が独自のデータと基準で算出する指標。
- 主に大手企業や人気企業への就職のしやすさに焦点を当てていることが多い。
- 学術的な公的指標ではなく、あくまで「民間の尺度」であると理解しておくことが大切。
- 公的な就職率(文部科学省・厚生労働省などの統計)
- 文部科学省や厚生労働省が実施する調査に基づく、全体的な就職率。
- 「卒業者のうち、就職した人の割合」のような形で示される。
- 大手企業か中小企業か、公務員かといった“就職の質”ではなく、「どこかに就職できたかどうか」を見る数字。
- 有名企業就職率・有名400社実就職率など
- 東洋経済オンラインと大学通信などが、特定の有名企業リストをもとに算出する指標。
- 「有名企業リストに含まれる企業に、どれだけ卒業生が就職しているか」を見る。
- 大手志向の学生にとっては、就職偏差値よりも中身がイメージしやすい場合がある。
ここまで見て分かるポイントは、
「就職偏差値」は主に大手・人気企業への就職傾向寄りの指標であり、
「公的就職率」は全体の就職状況を見る指標であり、
「有名企業就職率」は有名企業群への就職状況を見る指標である。
ということです。
就職偏差値というエンティティの「立ち位置」
就職偏差値は、多くの場合、日本企業格付センターなどの民間機関が集めた就職実績や企業の格付情報をもとに算出されます。
このため、就職偏差値は次のような性質を持ちます。
- 大手企業や人気企業への就職実績が多い大学の就職偏差値は、高くなりやすい
- 首都圏の大学や、企業との距離が近い大学が有利になりやすい
- 学部や専攻による違いまでは、細かく反映されないことが多い
「就職偏差値が高い大学=すべての学生にとって就職に有利な大学」ではなく、
「大手企業志向の学生にとって、一定の追い風になりやすい環境を持つ大学」の傾向を示した数字
くらいに捉えると、かなり見え方が変わります。
公的統計や有名企業就職率との関係
一方で、文部科学省や厚生労働省が発表する就職率統計は、「どんな企業か」ではなく「就職したかどうか」に重きがあります。
また、有名400社実就職率のような指標は、「定められた有名企業リストに、どのくらい卒業生が就職しているか」を見る指標です。
つまり、次のように整理できます。
- 就職偏差値 × 日本企業格付センターなど
→ 「大手・人気企業への就職のしやすさ」を民間基準でスコア化したもの - 実就職率 × 東洋経済オンライン × 大学通信
→ 有名企業就職率や実就職率などで「どのレベルの企業に、どれだけ就職しているか」を可視化したもの - 公的就職率 × 文部科学省・厚生労働省
→ 「卒業者全体の就職状況」の把握を目的としたもの
どれか一つが“正義”ではなく、それぞれ得意分野が違う道具だと理解すると、ランキング全体がぐっと怖くなくなります。
志望業界×学部×地域で変わる「賢いランキングの使い方」
結論:自分の「志望業界・学部・地域」でフィルターをかけて初めて、ランキングは役に立つ
ここからが、実際に役に立つ使い方の話です。
就職偏差値や有名企業就職率のような数字は、
- 志望業界
- 志望職種
- 行きたい地域(首都圏か、地元か)
- 行きたい学部や専攻
によって、意味合いが大きく変わります。
3タイプのケースで考える「賢い使い方」
① 大手企業志向・首都圏志向の文系タイプ
- 志望像:
- 「できれば知名度のある企業に行きたい」
- 「勤務地は東京や首都圏がいい」
- 文系で、経済・経営・商学・文系学部を検討
このタイプにとって有効な指標
- 就職偏差値(大手・人気企業への就職傾向を把握)
- 有名企業就職率・有名400社実就職率など(実際にどれだけ有名企業に就職しているか)
注意点
- 首都圏の大学は、企業との距離が近くインターンやOB訪問がしやすいため、数値面で有利になりやすい。
- このため、地方国公立大学の良さが数字で過小評価されることもある。
② メーカー・技術職志向の理系タイプ
- 志望像:
- 「ものづくり企業で研究職・開発職として働きたい」
- 理工学部・工学部・情報系学部などを志望
このタイプにとって有効な指標
- 学部・専攻別の就職実績(工学部卒がどんな企業に行っているか)
- 実就職率(理工系大学や工科系大学の安定した就職状況)
注意点
- 理工系では、地方の公立大学や工科系単科大学がメーカーに強いケースも多く、
大学名より学部の専門性と地域の産業構造が重要になる。 - 就職偏差値がさほど高くなくても、特定の業界へのパイプが非常に太い大学もある。
③ 地元志向・公務員志向タイプ
- 志望像:
- 「地元で働きたい」
- 「地方公務員や地元企業も視野に入れている」
このタイプにとって有効な指標
- 公的な就職率(全体として安定して就職しているか)
- 大学公式サイトの就職実績ページ(就職先の地域や業種の内訳)
注意点
- 就職偏差値は、全国的な大手企業への就職を強く意識した指標になることが多い。
- 地元に強い大学は、全国ランキングでは目立たないこともあるが、地元企業や自治体へのコネクションが強い場合がある。
| タイプ | 志望のイメージ | 重視したい指標 | 指標の使い方のポイント |
|---|---|---|---|
| 大手企業志向・首都圏志向の文系 | 首都圏で知名度のある企業に就職したい文系学生 | 就職偏差値/有名企業就職率/有名400社実就職率 | 大手・人気企業への就職傾向を見るために活用しつつ、学部内容やキャリア支援体制も合わせて確認する。 |
| メーカー・技術職志向の理系 | 工学・情報系でメーカーや技術職を志望する理系学生 | 学部別就職実績/実就職率 | 工学部や理工学部の就職先企業の傾向を確認し、地方の工科系大学や国公立大学の実績もチェックする。 |
| 地元志向・公務員志向 | 地元企業や地方公務員を志望する学生 | 公的就職率/大学公式の就職実績ページ | 地元企業や自治体への就職実績の有無を重視し、卒業生がどの地域で働いているかも確認する。 |
就職偏差値と大学選びでよくある質問Q&A
Q1. 就職偏差値が低い大学だと、大手企業には行けませんか?
結論: 就職偏差値が低い大学でも、大手企業に就職する学生はいます。ただし、「人数の多さ」と「難易度」は変わります。
就職偏差値が高い大学は、企業の採用ターゲットに入りやすく、説明会やインターンの案内も届きやすいという意味で、土俵に乗りやすい環境を持っています。
一方で、就職偏差値が低めの大学から大手企業に行く学生は、次のような特徴があります。
- 早い段階からインターンや資格取得に取り組んでいる
- 大学の外で、業界研究やOB・OG訪問に積極的に動いている
- 志望企業に合わせて、経験の積み方を工夫している
つまり、
「就職偏差値が高い大学=土俵に乗りやすい」
「就職偏差値が低い大学=自分で土俵に乗りにいく工夫がより必要」
という違いだと考えると、現実に近いイメージになります。
Q2. 学部より大学名を優先した方が、就職には有利ですか?
結論: 「どの大学か」と同じくらい、「どの学部で何を学ぶか」が就職後の選択肢に影響します。
採用担当として履歴書を見ていると、
- 大学名
- 学部・専攻
- 卒業研究やゼミ内容
- 課外活動・インターン経験
がセットで目に入ります。
大学名だけで合否を決めることはなく、学部・専攻と経験の組み合わせが非常に重要です。
特に、理系職や専門職では、学部・専攻によって応募できる職種が大きく変わります。
文系でも、興味の持てない学部で4年間を過ごすと、成績やモチベーションが落ち、そのまま就活にも響くケースを何度も見てきました。
Q3. 何年前のランキングまで参考にして大丈夫ですか?
結論: 就職偏差値や有名企業就職率などのランキングは、最新の数年分をざっくり見るくらいがちょうど良いです。
企業の採用方針や景気は変化します。
10年以上前のランキングは、現在の状況と合わない可能性が高いため、
- 直近1〜3年のデータを中心に見る
- 大きな傾向(「この大学は一貫して就職実績が安定している」など)をつかむ
という使い方がおすすめです。
Q4. 親と「就職に強い大学」のイメージが合いません。どう話せばいいですか?
結論: 親世代のイメージは、当時の大学・企業の状況に基づいているため、まず事実ベースのデータを一緒に見ることが大切です。
- 公的な就職率や、有名企業就職率などの客観的なデータ
- 大学公式サイトの就職実績ページ
- 志望業界で評価されている大学や学部の情報
を一緒に見ながら、「この大学は今こういう就職実績がある」「自分はこの業界を目指したい」と、感情ではなく情報と希望をセットで伝えると、話がかみ合いやすくなります。
まとめ:就職偏差値は「選び方の道具」、未来を決めるジャッジではない
ここまでを、もう一度コンパクトに整理します。
- 就職偏差値・就職率・有名企業就職率は、それぞれ見るポイントが違う数字である
- 就職偏差値は、主に大手・人気企業への就職のしやすさに焦点を当てた、民間機関の指標である
- 公的な就職率は、卒業生全体の就職状況を見るための指標である
- 有名企業就職率は、有名企業リストにどれだけ卒業生が就職しているかを示す指標である
- 「志望業界・学部・地域」を明確にしたうえで、自分に合った指標を重ねて見ると、ランキングは強い味方になる
そして何より大事なのは、
「どの大学に行くか」と同じくらい、
「その大学で何を学び、どんな経験を積むか」が、将来の就職を大きく左右する
という事実です。
就職偏差値ランキングを見て苦しくなったときは、いったん画面を閉じて、次の二つをノートに書き出してみてください。
- やってみたい仕事や、絶対に避けたい働き方
- 働きたい地域(首都圏か地元か、それとも海外か)
そのうえで、
- 志望業界に強い大学や学部
- その大学の就職偏差値・有名企業就職率・公的就職率
- 大学公式サイトに載っている就職実績
を、「自分の軸」をメガネにしながら見比べていくと、
“ランキングの上から順に選ぶ”世界から、“自分に合う選び方”の世界に、一歩足を踏み入れることができます。