「労いの言葉をかけたいのに、口を開いた瞬間に『お疲れ様です』しか出てこない。」
そのような経験をしたことがある人は、とても多いです。
残業続きの部下を見ながら、心の中では「いつも助かっている」と思っているのに、言葉にできない人がいます。
大きな案件を走り切った上司に、感謝を伝えたいのに、「お疲れ様でした」だけになってしまう人もいます。
本記事では、労いの言葉を「相手 × シーン × 伝えたい気持ち」の3つに分けて整理します。
上司・同僚・部下・取引先、それぞれに「今日からそのまま使えるフレーズ」と「避けた方がよい表現」を具体的に紹介します。
読み終えるころ、あなたは次の状態になっていることを目指します。
- 上司・同僚・部下・取引先に向けた労いの言葉を、例文レベルで複数ストックできていること
- 「この状況なら、このフレーズなら大丈夫」と、言葉選びの不安が軽くなっていること
- 明日から「いつもよりひと言多く」労いの言葉をかけてみよう、と思えていること
「労いの言葉が出てこない」と悩む人が多い3つの理由
最初にお伝えしたいことがあります。労いの言葉がうまく出てこないことは、決して「コミュニケーション能力が低いから」ではありません。
労いの言葉が出てこない背景には、だいたい次の3つの理由があります。
理由1:日本語とビジネスマナーが、少し複雑だから
「お疲れ様です」と「ご苦労様です」は、どちらも労いの言葉です。しかし、ビジネスマナーでは次のような違いがあります。
- 「お疲れ様です」
- 社内で広く使われる一般的な労いの表現
- 上司・同僚・部下に対して使っても問題ない表現
- 「ご苦労様です」
- 本来は目上から目下に向けて使う表現
- 上司などの目上に対して使うと「失礼」と受け取られるおそれがある表現
このルールを意識すると、「どちらを使えばいいか分からない」という迷いが生まれます。結果として、口をつぐんでしまう人が増えます。
理由2:ハラスメントや距離感への不安が大きくなっているから
部下や同僚に対して、労いの言葉をかけたいと思っても、次の不安がよぎる人がいます。
- 「踏み込みすぎて、プライベートに口を出しているように感じられないか?」
- 「励ますつもりが、“プレッシャー”として伝わらないか?」
このような不安があると、「何も言わないほうが安全かもしれない」と感じてしまいます。
しかし、実際には短くても、相手の負担や頑張りを認めるひと言は、多くの人にとって大きな支えになります。
理由3:労いの言葉を「センス」で話すものだと思い込んでいるから
「気の利いたひと言が言える人」は、確かに存在します。ただし、労いの言葉は、センスだけで成り立っているわけではありません。
労いの言葉は、次の2つを合わせたものとして考えられます。
- 「大変だったね」という共感
- 「ありがとう」という感謝
この2つを、相手とシーンに合わせて言語化できれば、誰でも労いの言葉を上達させることができます。
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: 労いの言葉は、特別なセンスではなく「観察」と「言語化の練習」で身につくスキルです。
なぜなら、多くの現場で、最初は「うまく言えない」と悩んでいたリーダーほど、「どこを見て、何を言うか」のパターンを理解した後は、安定して良い関係を築けるようになったからです。この知見が、あなたが最初の一歩を踏み出す助けになれば幸いです。
「相手 × シーン × 気持ち」で考えると、労いの言葉は一気に選びやすくなる
ここからは、労いの言葉を「感覚」ではなく「パターン」で整理していきます。
労いの基本構造:「大変だったね」+「ありがとう」
まず、労いの言葉をシンプルに分解します。
労いの言葉 = 大変だったね(共感)+ ありがとう(感謝)
具体例で考えると、次のようになります。
- 「連日の残業、本当に大変だったと思います。おかげでプロジェクトが無事に終わりました。」
- 「急なトラブル対応で大変でしたね。迅速に動いてくれてありがとう。」
どちらの例も、「負担や大変さを認める一文」と「感謝を伝える一文」がセットになっています。
3つの軸で労いの言葉を整理する
労いの言葉を選びやすくするために、次の3つの軸で考えます。
- 相手
- 上司
- 同僚
- 部下・後輩
- 取引先・社外の相手
- シーン
- 残業や繁忙期の後
- プロジェクト・イベントの完了後
- トラブル・クレーム対応の後
- 体調不良や休み明けの復帰時
- 伝えたい気持ち
- 感謝
- 共感
- ねぎらい
- 成長への期待
- 安心してほしいというメッセージ
この記事の残りの部分は、この3つの軸を具体的な言葉に落としていくステップです。どの軸にもとづいて言葉を選ぶのかを意識すると、フレーズの選択が一気に楽になります。
上司・同僚・部下・取引先別:そのまま使える労いの言葉&NG例文
ここからは、最も悩みやすい4つの相手に絞って、具体的な労いの言葉を紹介します。同時に、誤解されやすいNG表現もセットで見ていきます。
上司への労いの言葉
上司に対しては、「ねぎらう」というよりも、「感謝」と「学び」を軸にした表現が安心です。
上司への基本の考え方
- 「お疲れ様でした」だけで終わらせず、具体的な行動や判断に対する感謝を添える。
- 「大変でしたね」と上から見下ろすようなニュアンスにならないように注意する。
上司への口頭フレーズ例
- 「長い期間のプロジェクト、本当にお疲れ様でした。〇〇の場面での判断、非常に勉強になりました。」
- 「連日の会議対応、お疲れ様でした。おかげでチームとして進む方向がはっきりしました。」
- 「ご出張続きでお忙しい中、サポートいただきありがとうございました。」
上司へのメール・チャット例
- 「〇〇案件のご対応、誠にお疲れ様でした。特に△△の調整にお時間を割いてくださり、心強く感じました。」
- 「本日のミーティングでのご説明、ありがとうございました。方針が明確になり、進め方のイメージがつきました。」
同僚への労いの言葉
同僚に対しては、「共感」と「連帯感」を前面に出した表現が効果的です。
同僚への口頭フレーズ例
- 「この1週間、本当にバタバタだったよね。最後まで一緒に走り切れて、心強かった。」
- 「急な仕様変更で大変だったよね。対応してくれて、すごく助かった。」
- 「あの案件、かなりプレッシャーだったと思う。お疲れ様、本当に頑張ったね。」
同僚へのチャット例
- 「今日の対応お疲れ様!〇〇の場面でフォローに入ってくれて、本当に助かった。」
- 「連日の会議ラッシュ、お互いお疲れ様…!一緒に乗り切れてよかった。」
部下・後輩への労いの言葉
部下や後輩には、「プロセスの頑張り」と「成長」に焦点を当てた労いが効果的です。
部下への基本の考え方
- 結果だけではなく、「準備」「調整」「継続」などのプロセスを具体的に認める。
- 「もっと頑張ろう」というメッセージを含めたくなる場面でも、まずは「今までの頑張り」に焦点を当てる。
部下への口頭フレーズ例
- 「今回のプロジェクト、本当にお疲れ様でした。特に、毎日の進捗整理と共有がとても助かりました。」
- 「トラブル続きでつらい場面も多かったと思うけれど、最後まで投げ出さなかった姿勢を高く評価しています。」
- 「クライアント対応で大変なことが多かったと思う。ひとつひとつ丁寧に向き合ってくれて、ありがとう。」
部下へのチャット例
- 「今日のプレゼン、お疲れ様!準備の段階から工夫していたことが、しっかり伝わっていたと思います。」
- 「ここ数週間、本当に忙しかったね。粘り強く進めてくれて、心から感謝しています。」
取引先・社外への労いの言葉
取引先には、「お疲れ様です」よりも「ありがとうございました」や「ご尽力」を使うと安心です。
取引先へのメール例
- 「この度は、プロジェクト推進に多大なお力添えをいただき、誠にありがとうございました。」
- 「連日のご調整やお打ち合わせにお時間を割いていただき、深く感謝申し上げます。」
- 「短い準備期間の中、ご対応いただきありがとうございました。おかげさまで無事にリリースを迎えられました。」
NG表現とOK表現の比較
最後に、代表的なNG表現と、安心して使えるOK表現を比較して整理します。
| 相手 | NG表現 | 問題点の概要 | OK表現 | ポイント |
|---|---|---|---|---|
| 上司 | ご苦労様です | 目上に使うと失礼と受け取られるおそれがある表現 | 本日はありがとうございました | 感謝を軸にした表現に言い換える |
| 上司 | 大変でしたね | 上から評価しているように聞こえる可能性がある | 長期間のご対応、本当にお疲れ様でした | 「学びになりました」「勉強になりました」を添えて敬意を示す |
| 同僚 | やっと終わったね | 相手の頑張りより「疲れた」印象が強くなる | 長丁場お疲れ様!最後まで一緒に走り切れてよかった | 共感と連帯感をセットで伝える |
| 部下 | もっと頑張れそうだね | 今の頑張りを否定されたように感じる | ここまでよく頑張ったね。この経験を次にも活かしていこう | まず現在の努力を認めてから、次への期待を伝える |
| 部下 | そんなに大変じゃなかったでしょ? | 負担感を否定する表現であり、信頼を損なう | 負担も大きかったと思います。支えてくれてありがとう | 相手の負担を一度受け止めてから話を続ける |
| 取引先 | お疲れ様でした | 社外の相手にはカジュアルすぎる場合がある | この度はご対応いただき、誠にありがとうございました | 「お礼」を軸にしたフォーマルな表現を使う |
| 取引先 | 忙しいところすみませんでした | 忙しさを前提にした表現で、負担を強調してしまうことがある | ご多忙の中、お時間をいただきありがとうございました | 感謝と配慮をセットで伝える |
よくあるQ&A:距離感・頻度・チャットでの労いはどうする?
ここでは、労いの言葉についてよく受ける質問にお答えします。
Q1. 上司に労いの言葉をかけると、失礼になりませんか?
結論: 上司に対する労いの言葉は、「ねぎらい」よりも「感謝」と「学び」を軸にすれば、失礼にはなりません。
理由:
上司に対して「大変でしたね」と言うと、評価しているように聞こえる場合があります。
一方、「ご対応いただきありがとうございました」「〇〇の場面での判断が勉強になりました」といった表現は、敬意を伝える表現として自然です。
使いやすい一言テンプレート
- 「本日はお時間をいただき、ありがとうございました。」
- 「長期間のご対応、本当にお疲れ様でした。非常に勉強になりました。」
Q2. 毎回労いの言葉をかけると、わざとらしく見えませんか?
結論: 労いの言葉が「習慣」として自然になるまで、少しだけ意識的に増やす期間があっても問題ありません。
理由:
不自然さを生む原因は、「頻度」よりも「中身の薄さ」です。「いつもお疲れ様です」だけを繰り返すと、形だけに見えてしまいます。
「どんな点を見て、何を感じたのか」を一言だけ具体化すると、自然な労いになります。
使いやすい一言テンプレート
- 「ここ最近、〇〇の対応が続いていましたよね。本当にお疲れ様でした。」
- 「今日のミーティング準備、大変だったと思います。おかげでスムーズに進みました。」
Q3. チャットで短く労いの言葉を送りたいとき、どんなフレーズが無難ですか?
結論: 「お疲れ様です」+「具体的な一言」の組み合わせが最も使いやすいです。
例:
- 「本日の対応お疲れ様です!迅速に動いてくれて助かりました。」
- 「連日の会議、お疲れ様でした。資料作成のおかげで議論が整理されました。」
1行でも、具体的なひと言が入るだけで、気持ちの伝わり方が変わります。
Q4. 相手が明らかに疲れていそうなとき、どこまで踏み込んで聞いてよいですか?
結論: まずは「様子への気づき」を伝えるところまでに留め、そのあと相手の反応を見てから踏み込むと安全です。
例:
- 「最近お忙しそうですが、体調は大丈夫ですか?」
- 「ここしばらく、残業が続いていますよね。何かお手伝いできることがあれば教えてください。」
相手が「実は…」と話し始めたときには、意見よりも「聞く姿勢」を大切にします。
Q5. 失敗続きの部下に、どのように労いの言葉をかければよいですか?
結論: まずは「挑戦やプロセス」を認めたうえで、「一緒に改善していこう」というメッセージを添えます。
例:
- 「結果は悔しいと思うけれど、ここまで粘り強く対応してくれてありがとう。次は一緒に原因を整理して、もっと良くしていこう。」
- 「たくさんチャレンジしてくれたこと自体を評価しています。振り返りも含めて、また話させてください。」
最初の一言で「努力を否定していないこと」をはっきり示すと、対話がスムーズになります。
まとめ:労いの言葉は、相手との関係を育てる「小さな投資」
最後に、この記事のポイントを3つに整理します。
- 労いの言葉は「大変だったね」+「ありがとう」の組み合わせで考えられること
- 「相手 × シーン × 気持ち」の3軸で整理すると、フレーズが一気に選びやすくなること
- 上司・同僚・部下・取引先それぞれに、今日から使える安心な表現があること
労いの言葉は、相手のモチベーションを支えるだけでなく、あなた自身の信頼感や評価を高める「小さな投資」です。
最初から完璧な言葉である必要はありません。まずは、「いつもよりひと言だけ多く」かけてみてください。
今日の行動提案
- 本記事の中から、気に入った労いのフレーズを1つだけ選んでください。
- 選んだフレーズを、メモアプリやチャットの定型文として保存してください。
- 明日1日のあいだに、そのフレーズを誰かに1回使ってみてください。
小さな一歩が、相手との関係と職場の空気を、少しずつ変えていきます。
著者情報
著者: 佐伯 みのり
肩書き: 組織開発コンサルタント/元人事マネージャー
人事として10年以上、評価面談やハラスメント相談、マネジメント研修を担当。
現在は、企業向けに「承認と労いのコミュニケーション」をテーマにした研修や1on1設計の支援を行っている。
「特別なセンスがなくても、職場の言葉が変われば、人の表情は必ず変わる」という信念で活動中。